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エネルギー問題の本質


ガソリン価格がまた上がりましたね。筆者も車通勤ですので,このところの持続的値上げは非常にイタイです。
さて,ガソリンと云えば石油ですが,その昔,つい30年ほど前(1970年代)には原油の埋蔵量(可採年数)はあと30年なんて云われてました。計算すると,もう枯渇してもおかしくない頃なんですが,無くなるなんて話は聞きませんね。以前に,てっくさんは”原油はなくならないよ”というエントリーをアップしておられました。それに依ると,現時点での可採年数は49年なんだそうです。しかも,年々それは増えていると・・・(ホント?)。まぁ実際は経済的,技術的側面を加えた数字のマジックらしいのですが,どちらにしてもあと半世紀くらいは大丈夫のようです。
その間に何とか別の高い効率をもった代替エネルギーを開拓しないことには,人類は今のような高エントロピー生活を維持できなくなることは確実です。この種の問題は本来,政治的話題よりも優位にくるべき課題なんです。エネルギーが無ければ人類はなんの生産活動もできないわけですからね。
しかし,このエネルギー問題には現時点の科学では,どうしようもなく越えられない壁があります。この壁がエネルギーというものの本質なんですが,この辺りについては”晴耕雨読”さんが精力的に取り組んでおられますので,このエントリーを参照していただきたいと思います。

エネルギーというものはご存じのように質量(物質そのもの)と等価なのですが,熱力学の法則という巨大な障壁があって100%の効率でそれを取り出すことはできません。この効率のことを,エネルギー変換効率と呼びます。これがエネルギー問題第一の障害です。理系の方ならご存じのことと思いますが,熱力学の法則は実存する全ての事象に否が応でも関わってくる原則で第一法則から第三法則まであります。晴耕雨読さんでも解説されていますが,それとはちょっと違った説明をしてみたいと思います。
シンプルに纏めると,

第一法則では”エネルギーの変換効率は絶対に100%を越えることはなく,よくてトントンである”ことを規定しています。
第二法則では”そのトントンが達成されるのは絶対零度(約-273.15℃)においてのみ可能である”ことを規定しています。
第三法則では”絶対零度には絶対に到達できない”ことを規定しています。


要するに,エネルギー変換効率が100%のものはこの世に存在しないと云うことです。エネルギーの発生には例外なくロス(熱散逸)が生ずることになり,それは再利用する毎に増え,ついにはその資源から何のエネルギーも得られなくなります(エントロピーが増大すると云います)。
唯一,エネルギー変換効率がほぼ100%のものに”物質(マター)-反物質(アンチマター)の対消滅”という現象がありますが,これはもうスタートレックの世界なので止めておきます(笑)。

じつは,この反物質を作り出すのに必要なエネルギーはその反物質によって得られるエネルギーよりも遙かに大きいことがエネルギー問題第二の障害になります。この効率のことを,エネルギー利益率(EPR= 得られるエネルギー/必要なエネルギー)と呼びます。実質的には,これからの代替エネルギー問題にとってはこのEPRの方EPR.gifが重要です。
この値が1以上ないと,エネルギー開発は徒労に終わり無意味になります。図に各種エネルギー資源のEPRを示しますが横軸の輸送効率も考慮すると,如何に現在の石油資源のEPRが高いかよく分かりますエネルギー基本戦略に関する調査報告書より)。
つまり,そんなに簡単に効率の良い代替エネルギーなど見つからないことを示しています。この図にはありませんが,よく話題になるメタンハイドレードは1を切る値(約0.98)だと云われておりますので,今のところは無意味なエネルギーと云うことになりますね(なんか勿体ない気がします)。ただし,このEPRは上述の変換効率よりも技術的進歩に依存しますので,それによってある程度,値を増加させることは可能です。



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さて,EPRが代替エネルギー開発にとって必要不可欠なファクターであることが分かりましたが,昨日付けの毎日の社説に注目のクリーンエネルギーであるバイオマス(植物由来の資源)エネルギーについて以下のように評論されております。
バイオ燃料 生産と利用に秩序が必要だ 

石油元売り各社が出荷価格を相次いで引き上げている。8月はレジャーシーズンたけなわだが、給油所の価格はレギュラーガソリンで1リットル140円台になるという。こうした石油価格の高騰を背景に、代替燃料の開発と利用拡大の動きが世界的に広がっている。特に注目されているのが植物を原料としたバイオ燃料だ。 
ブラジルではサトウキビを原料にしたアルコールがガソリンの代わりに広く使われている。米国でもトウモロコシを原料にしたアルコール燃料の利用拡大が、政府が主導する形で進められている。 
欧州の場合は小麦が原料だ。これ以外にも、ナタネ油やヤシ油をディーゼルエンジンの燃料として活用しようという動きが広がっている。日本でもサトウキビの搾りかすを原料にしたプロジェクトが沖縄で進められている。 植物を原料としたバイオ燃料の利用拡大は、炭酸ガスの排出を抑制し、地球環境対策への効果も期待されている。
 しかし、いいことばかりではない。作物を栽培し、発酵や搾油で燃料を取り出すために使用されるエネルギーも考慮に入れる必要がある。トウモロコシからアルコール燃料をつくる場合、投入エネルギー量が抽出されるエネルギー量を上回るという研究結果もある。サトウキビやヤシの作付けを増やすために熱帯雨林の伐採など自然を破壊するなら、逆効果だ。
 また、バイオ燃料の利用拡大が、エネルギー政策の一環で行われているのではなく、実際には農業対策の面が強いことも考えておくべきだろう。米国のトウモロコシや欧州の小麦は、農業保護の結果、過剰生産が問題となっている代表的な農産物でもある。
 現在は政府が補助金までつけて輸出しているものの、燃料の原料として大量に使われるようになると、余剰解消を通り越し、不足することもありうる。価格が上昇すれば農家は潤い、政権にとっても都合がいいかもしれない。しかし、増産のため作付けを急激に拡大すれば自然破壊につながるし、バイオ燃料があるから省エネは不必要ということになっても困る。
 実際にブラジルで燃料用に回されるサトウキビが急増して以来、砂糖の国際価格が急騰している。砂糖ほどではないものの、ナタネ油の市況も上昇気味だ。トウモロコシでも同じことが起これば、飼料価格が高騰し食肉価格にも影響してくる。基礎的な食料価格の上昇は、貧困層の家計を直撃することにもなる。
 バイオ燃料については、農産物を利用したものだけでなく、廃材や枯れ草などを原料にした研究も進められている。セルロースを分解し、発酵させてアルコールを取り出す。食料用の農産物からではなく、セルロースから効率よく燃料を生産できるよう、技術開発が進むことを期待したい。
 地球環境対策からも脚光を浴びているバイオ燃料だが、自然破壊や食料価格上昇などリスクもあることを忘れてはならない。秩序のある生産と利用が必要だ。

代替エネルギーの開発にはエネルギー枯渇問題だけでなく,環境汚染問題対策という側面もあります。バイオマスから作られるエチルアルコール燃料やバイオディーゼル燃料はCO2の排出が少なく,石油由来の燃料と違って硫黄分などの有害ガスを発生させないのでクリーンエネルギーと云われています。
しかし社説にもあるように,場合によってはEPRが1を下回ることがあること,本来の食用である領分を侵すこと,また農地確保のために伐採や砂漠化等の環境破壊を反って促進してしまうという本末転倒なデメリットを有することなど色々な難題があります。特に二番目の食用の領分を侵すという問題は早速,数日前のニュースでも採り上げられていました。砂糖黍不足による甘味料価格(砂糖)の高騰です。
さらに,ここでも一番重要な問題はやはりEPRでしょう。EPRは資源生産の効率を意味することになりますから,クリーンなエネルギー資源を生み出すためにダーティーなエネルギーを非効率に使ったのでは全くナンセンスです。筆者は生分解性プラスチック(土中の微生物の作用で分解する高分子)の改質研究にも関わっていますが,実験室レベルの小ロットの樹脂を作るのにも,有機溶剤をはじめとしたいわゆる毒物・劇物を結構大量に消費します。このケースでもEPR的に考えると,可成り罪なことをしているなぁと考え込んでしまうことが多々あります。

それと,ここからは余談となりますが,CO2の削減に有効だと云われている植物によるCO2固定化に関して少し述べておきます。
社説の最後にも少し述べられていますが,セルロースは植物にCO2が固定化することで生合成される木材の三要素の一つです。このセルロースが分解するとグルコースという糖になり,さらにこれを発酵させるとエチルアルコールになりますので,これが燃料になるという寸法です。さらに合成面を考えると,このエチルアルコールからアセチレンという物質を合成することができます。アセチレンはさらにビニル化合物という物質に変えることが可能です。この物質は石油由来の通常プラスチックを作る前段階のモノマー(単量体)と呼ばれるもので,バイオマスからも石油由来のポリエチレンやポリプロピレンといった普通のプラスチックが作れることになります。
これらのような石油代替の有機材料は現在の過渡期にはこうしたバイオマスからの合成に頼って作ることになりますが,将来,技術がさらに進歩すれば,CO2と水だけから人工植物や人工セルロース,果ては人工酵素等を作り出すことが可能となるでしょう。
この技術をバイオミメティカル(生物模倣)技術と呼びますが,これが可能になって初めてCO2の固定化が完成に近づきます。本来,エネルギー消費により生み出される非常に邪魔で無意味なCO2ですが,逆にこうした植物模倣技術によって有効利用することはEPR論に対する一つの挑戦にもなると云えます。

今回はいつもの政治的話題とは異なったことを書いてみました。これが何かの手助けになれば幸いです。



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